3月23日の<uttiiの電子版ウォッチ>(無料版) [uttiiの電子版ウォッチ]
【20150323】
【はじめに】
二月が駆け足で過ぎ去っていくのは絶対的に日数が少ないからで、それは仕方がないとしても、なぜ、三月まで急ぎ足に過ぎ去ってしまうのだろう。それは二月の日数の少なさに気をとられているうちに10日ほどが既に終わってしまうからだとか、いやいや確定申告があるからだとか、はたまた、花粉症のせいだとか、これまた色々考えているうち、あっと言う間に四月の足音が近づいているのに気付いてハッとする。昨日は日比谷公園で巨大なデモがあり、1万4000人が「安倍政権NO」を叫び、国会を包囲した。そんな3月22日のuttiiの電子版ウォッチです。
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メルマガID :0001652387
メルマガタイトル:uttiiの電子版ウォッチ
対応機器 :PC・携帯向け
表示形式 :テキスト形式
発行周期 :毎週 月・火・水・木・金・土曜日
創刊日 :2015/4/1
登録料金 :324円/月(税込)
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【今日のラインナップ】
1.ついに《朝日》は反中姿勢鮮明に?
2.「衣の下に鎧(よろい)」とは言うけれど、「1面トップの下に世論誘導記事」。
3.公明党は、本当に「加憲」したかったのだろうか。
4.保育問題のウラに社会保障費削減の大なた。
【朝日】の1面トップには驚かされた。大見出しで「中国、米で尖閣宣伝工作」。工作?これ、ホントに《朝日》?と、右肩に「朝日新聞」と書いてあるのを思わず目で確認してしまった。「世界新秩序米中を追う」という、もしかしたら今後連載される企画(連載表示も回数表示もないが…)の一環のようで、この記事はワシントンで「機動特派員」(ガンダムみたいな特派員がいたのか!?)が書き、2面に続く大きな記事となっている。1面が導入になっていて、主に昨年11月、APEC首脳会談の場で日中会談が実現したときのことを取り上げている。外交担当者による事前のすりあわせの結果、日本が「尖閣を巡る領土問題の存在を認めた」という情報を、在米中国大使館の館員たちが日本に先駆けて、いっせいにアメリカのメディアやシンクタンクの関係者などに電話し、メディアの論調を自国に有利な内容に持って行くことに成功したという中身だ。2面に続くのは、その中国の宣伝広報戦略が非常に強力であり、CCTVと新華社の対外進出の実情や政府揚げての取り組み姿勢などが書かれている。
なんだか読んでいて情けなくなる。中国の力が次第に強くなり、ひたひたと忍び寄っているというような、脅威論につながる印象をばらまきつつ、言われていることの中身は、中国大使館は自国の利益に資するための当たり前の行動をただ真面目に実行し、対する日本の外交当局者は怠けに怠けた結果、「情報戦」に完全敗北したというだけのこと。わざわざ中国の行動を「工作」と呼んでスパイ活動視する話ではない。2面の方では中国の宣伝戦略の組織的計画的な側面を強調しているのだが、その点を強調すればするだけ、情報戦の勝敗は、中国の「物量」と「決意」とによって今後とも揺らがないということになり、いよいよ悲壮な話になっていく。《朝日》、こんなことをやっていては本当にダメだと思う。
【読売】の1面、トップ記事は、免震ゴムの性能偽装問題で、調査結果が「安全」と出ても、交換を要求する自治体が広がるだろうという、「ああ、なるほどね」と言わざるを得ない記事。現時点で「全面交換」を求めているところに加え「検討中」のところもあるのだが、どうやら記事の方向性を決めたのは、愛媛県知事が「安全性が確認されたとしても製品の交換を求めざるを得ない」と記者会見で発言したことだったようだ。ご丁寧に関連記事が二つも付いていて、3面の「スキャナー」では、東洋ゴム内部のチェック体制や大臣認定制度などシステムの問題が分析され、39面では住民の怒りがとりあげられている。この記事は、ダミーに見える。
《読売》1面記事の中心は、今朝に関して言えば、免震ゴム関連のトップ記事ではない。これはなかなか巧妙だ。トップ記事の下に、ちょっと隠れるようにしておかれている三段50行ほどの記事。「憲法改正「賛成」51%」の記事、こちらが最重要。
「集団的自衛権限定容認「評価」53%」との見出しも踊るこの記事、かなり「無理矢理」感が濃厚で、自社が行った「世論調査」の結果、「憲法を「改正する方がよい」と思う人は51%で、「改正しない方がよい」の46%を上回った」と言挙げしている。過半数の結果を出せたことが嬉しくてたまらないといった風情だ。さらに笑うほかないのは、集団的自衛権についての記述。「集団的自衛権を必要最小限の範囲で行使できるようにしたことを「評価する」は53%で、「評価しない」は45%」、「その後の国会の議論などを通じ、理解が進んでいると見られる」と記者が書いている点だ。おいおい、まさか、選択肢に「必要最小限の範囲で行使できるようにした」なんて「説明」を付けちゃったんじゃないだろうね?完全な「誘導尋問」ですよ、それ。「理解が進んでいない」人ほど、「賛成」と言ってしまう危険が高くなるではないか。と思って、詳報されているという9面を覗くと…あるある、七つ目の質問の途中で「政府は、憲法解釈を見直して、国民の権利が根底からくつがえされる明白な危険がある場合に、集団的自衛権を必要最小限の範囲で使うことができると決めました。集団的自衛権を限定的に使えるようになったことを、評価しますか、評価しませんか。」と聞いている。これでは「必要なことを政府が決めたものであって、しかも限定的なのですよ、ですからあなたは賛成して良いんですよ」とニコニコしながら質問しているようなものではないか。こんなものを「世論調査」と呼ぶべきか、《読売》はまず自問自答すべきだろう。
調査結果の中で興味深い点が一つある。九条改憲について聞いた五問目。結果は「これまで通り解釈や運用で対応する」が40%、「改正」が35%、「厳密に守り、解釈や運用では対応しない」が20%とある。なあんだ、九条改憲に賛成が35%、反対が60%ということではないか。《読売》さんは、少なくとも見出しにはこのことをこそ書き記すべきだった。
【毎日】の1面トップは不思議な記事だ。「公明「環境権」の除外検討」「憲法改正で方針転換」として、いわゆる「加憲」の対象から、環境権を除外する検討に入ったと伝えている。書いているのは政治部の記者。ヨーロッパなどで憲法に「環境権」規定が置かれているために違憲訴訟が相次ぎ、開発や投資の妨げになっているとの認識から、「経済への支障」を懸念して外すことにしようという話。今後、公明党は加憲対象として、「地方自治の拡充」や「衆院解散時に大規模災害が起きた場合の対応を定めた緊急事態条項の創設」を訴える方針だという。また同党幹部は「加憲は本来、九条を想定している」とも言い、「自衛隊の存在と国際貢献」を第三項として書き加えることも提唱している。
もともと九条改憲を掲げる自民党と話を合わせるため、なおかつ平和の党を装う手段として出てきた「加憲」であり、その中身としての「環境権」だったと認識しているが、それをかなぐり捨てるにはよほどのことがあったのだろう。改憲を目指す自公の政治的連合に、「環境権」に強く反対する経済界の意向も重ね合わせていかなければならないとの切迫した事情が生じたものと想像する。今月中に始まる憲法審査会の議論で改憲項目の絞り込みに入らなければならず、統一地方選前に決着を付けておく必要と相俟って、このタイミングで情報が出てきたのだろう。狐と狸が化かし合いをしているの図。
この記事には関連記事の指定がないのだが、実は2面に「本当は関連している記事」が置かれている。
やはり政治部の記者が書いた「初の改憲項目に緊急事態条項を」という小さな記事、自民党憲法改正推進本部事務局長で首相補佐官でもある礒崎陽輔氏が地元大分の講演で語った内容だ。重要なことが二つ。一つは、震災などの際に「法律の範囲内で首相に権限を与え、対処すべき」としていること。また二つ目は、改憲について「最初は多くの国民の賛同が得られるところで」改正し、「その後、九条や改憲手続きなど、少し難しい問題もやりたい」としている点だ。公明党の「加憲対象の再検討」記事も、こうした自民党の改憲の動きと軌を一にするものと考えておくべきだ。つまり、自民党は既に「環境権」の「加憲」を想定していないこと、また中身がどうあれ、公明党の「加憲」は紛(まご)う事なき「トロイの木馬」であり、その先に九条改憲(おそらくは公明党が今提唱しているものとは全く違ったものになるだろう)が控えているということだ。
【東京】の1面トップは、自社による「保育緊急アンケート」の結果、今年四月に認可保育所に入れない子どもの数が、《東京》23区で2万1千人、申込者6万500余人のうち、35%に上ることが判明したとのニュース。3人に1人は入れないということだ。昨年調査に続くもので、率は3ポイント減ったが、人数は21人増えている。港区のように認可保育所整備に力を入れ、2年間に20カ所も新設したところがある一方で、江戸川区や渋谷区のように消極的なところもあり、そのようなところは「就学前人口は減り始めている」との現状認識があるようだ。結果、待機児童問題は全く改善されていないことになる。
関連記事が27面にあり、こちらはルポ仕立てで、保育を巡るもう一つの問題、介護保険制度をモデルに国が導入した「子ども・子育て支援新制度」がやり玉に。入所申請を受け、自治体が「保育の必要性」を認定するシステムだが、申請する側からすれば、せっかく「認定」してもらっても、入所できる保証とはならない。かえって混乱を生んでいるとの指摘がある。
内閣府は「保育需要をつかみやすくなる効果もある」と弁解。しかし、保育の必要性を自治体が公式に認定しておきながら、入れるところがないというのでは、何のための制度か。何かが間違っているが、その間違いの根本のところには、社会保障に対する国の姿勢が大きく展開してきたことがある。
財政悪化の根源のように貶められてきた社会保障については、基本的に「どうやって削るか」が政権と政権になびく自治体に共通する関心のようで、保育所にせよ介護施設にせよ、その時点で供給できるサービスの枠内に、住民の希望を押し込めるため、様々なテクニックが弄されている。サービスが受けられないことをどうやって納得させるか、諦めさせるか、そのことしか考えていないのではないか。そのときに必ず出てくるのが「公平性」の議論だ。生活保護をイメージすれば分かりやすいと思うが、「公平性」の担保を至上命題に掲げてしまうと、必要な人に必要な保護がいっそう行き渡らなくなる。そのことを十二分に理解しながら、官僚と政治家は制度設計に手を加えている。その非情さを是非批判して欲しい。《東京》はこうした地道な記事を掲げることも得意だが、1面と27面の関連性をハッキリさせるには、叙上の論点が必要だったのではないか。できれば、社会保障政策の大転換という論点で、社説が欲しかったところだ。
もう一点、昨日は、日比谷公園で、安倍政権が打ち出す様々な政策に抗議する大規模な集会とデモが行われた。「安倍政権NO」と銘打ち、普段は別々に行動している団体が共同で企画。参加者1万4000人(主催者発表)が国会を取り囲んだ。このニュースを《東京》は1面下に写真入りで伝え、《朝日》は社会面に載せたが、大相撲の輝の富士に関する大きな記事と写真の下に置くことで目立たないようにしたのかどうか、小さく二段で報じている。《読売》と《毎日》は一切伝えていない。
3月20日の<uttiiの電子版ウォッチ>(無料版) [uttiiの電子版ウォッチ]
二日近く更新が遅れてしまいました。3月20日の<uttiiの電子版ウォッチ>をご覧ください。いつもと趣向を変えて、各紙が1面に掲載する名物コラムを俎上に載せています。
【20150320】
【はじめに】
「テロと米朝」。亡くなった桂米朝さんには何の罪もないけれど、そんな対極的な事柄が同時に目に飛び込んでくる今朝の各紙1面。チュニジアからの悲報は、どうしたって20年前の地下鉄サリン事件を想起させる。桜の便りとともに鼻もムズムズし始めるこの季節、心がざわついて何か叫び出したい衝動にも駆られる3月20日。今朝の<uttiiの電子版ウォッチ>をご覧ください。
しかし、米朝さんは本当に偉いおひとだったのですね。各紙1面に大きな記事を配していますが、《東京》に至っては1面トップですよ。文化勲章だ、人間国宝っていうのはお上のくださるものですから、まあ、どうでもいいとは言いませんが、やっぱりどうでもいい。そんなことより、とにかく、上方落語というものを今楽しむことができるのは、どうやら米朝さんのお陰、ってことになるらしいわけで。そらぁ、凄いかたです。このかたを語るときに必ずみなさん口にされるのが「上品さ」。そう。耳の奥に残っていますよ、米朝さん独特の鯔背なお声と滑らかな語り口。
そんな米朝さんの懐かしい記憶に誘われて、今朝はいつもと少し違うことをやってみることに。
各紙、1面の下には短いコラムが置かれていることはみなさん先刻ご承知でしょう。オウム真理教による地下鉄サリン事件からちょうど20年がたち、二日前のチュニジアの無差別テロ事件が生々しい今日3月20日、四つのコラムを比較して、各紙の特徴を紡ぎ出してみることにしましょう。 四つのコラムとは、《朝日》の「天声人語」、《読売》の「編集手帳」、《毎日》の「余録」、そして《東京》の「筆洗」です。
まずは【朝日】の「天声人語」から。書き出しは、「「あの世」を信じているひとはどれぐらいの割合か」と来た。調査によれば、20歳代では55年前に13%だったものが45%と、実に3倍以上に増えたという。今はドリームが失われ、「若者の希望はかすれがちだ」と。事件後に取材した若いオウム信者たちから見えてきたのは、オウムは、悶々とした若者の悩みを希望に変える錬金術師だったということらしい。オウムのような落とし穴にはまってしまう若者は、昔よりも今の方が多いのではないか。そんな警告を記者は発したいらしい。的外れではないだろうが、この単純な構図は少々見飽きた。他人のことを心配するより、《朝日》は、ジャーナリストとして社会の木鐸になる夢を抱いた若者が自社への就職を希望してくれるか否か、もっと心配した方がよい。「高収入」ばかり期待しているような輩が集まってしまえば、それこそ《朝日》の未来は覚束ないだろう。オウム以外にも落とし穴はたくさんある。
【読売】の「編集手帳」は、事件から20年を迎える地下鉄サリン事件で、当時霞ヶ関駅の助役だった夫を殺された高橋シズエさんのことから書き始める。シズエさんは講演の際、白い紙をくしゃくしゃに丸め、元に戻そうとしても消えないそのしわを、癒えぬことのない「心の傷」になぞらえるという。説得力のある話だが、そこから「編集手帳」の暴走が始まる。オウムを「宗教に名を借りた犯罪者の集まり」「若者をたぶらかす術策を心得ている」「人の命を虫けらのように扱って恥じない」とひたすら論難し、最後に「無数の白い紙をくしゃくしゃにした狂気を、時空を越えて憎む」と一本調子に言い切り、コラムを閉じている。言われていることはもっともだと思いながら、そのことしか口にしない「編集手帳」による事件の捉え方には、単純な「正邪二元論」が潜んでいるのが見て取れる。悪い奴はやっつけてしまえ、という素朴な「正義感」は、遺族の応報感情は満足させても、事件の真相やその背景に潜む問題を見えなくしてしまう危険がある。実に《読売》らしいなと思いつつ、自衛隊が海外に出て行くときにもこの調子でやられたら堪らないだろうなあと感じた。桃太郎の鬼退治じゃないんだから。
【毎日】の「余録」。地中海世界には、嫌悪などの籠もった眼差しが「相手の人に災いをもたらすという邪視信仰」があり、チュニジアの家々の扉には、その災いを払う「ファーティマの手」と呼ばれる護符の図案が描かれているという。もう、ここだけで十分にチャーミングな話になっているが、こうした信仰から生まれた気風が、「お互いの言動をつつしみ、相手を気遣う作法」につながり、その延長線上に「アラブの春」を民主化に結びつけたチュニジア社会の穏やかさや寛容といったものを想起しうると展開する。その「穏やかさ」を裏切る凄惨なテロ事件。対抗するためには、「犠牲者の無念さを胸に刻み、邪悪な力を封じ込める手をしっかりつなぎ合わさねばならない国際社会だ」と締めている。最後の結論だけは「いかにも」な感じが漂っていて、正直好きになれない。もう一度、「相手への気遣い」や「穏やかさ」「寛容」を登場させて欲しかったけれど、それでも魅力的な文章であることに違いはない。単純な「二元論」を越えようとする何かが、ここにはあるように思う。
【東京】の「筆洗」は、アクロバティックなコラムになった。まずは『毒のはなし』(バチヴァロワ著)から説き起こす。「毒の歴史は人類の誕生とともに始ま」り、「毒の調合の秘密を知るのは神官や族長に限られ」たと。毒物学の世界的権威アンソニー・トゥー博士が土屋正実死刑囚に七回目の面会を求めたという記事が17日の《東京》に掲載されており、電子版ウォッチでも紹介したが、そのトゥー博士によれば、土谷死刑囚は、この『毒のはなし』を読んでサリンを使う着想を得たのだという。今日の「筆洗」はここからの話の展開が凄い。オウムが毒を使ったのは、「毒の調合の秘密」の力で自らの正義を世間に示すためだった、と前半の話を括り、続いて「毒性ゼロのものは存在しない」という『毒のはなし』の引用から、一気に「正義にも毒が潜む」と話を逆転させる。「実現のために人を害することもいとわぬようになった時、正義は猛毒を発生し始める」という締めの言葉が指し示しているのは、何もオウムのことばかりではあるまい。日本社会は、今もオウム事件の影響下にあるということにほかならないではないか。正義ほど恐ろしいものはない。了。
3月19日のuttiiの電子版ウォッチ(無料版) [uttiiの電子版ウォッチ]
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【20150319】
【はじめに】
各紙、1面で、安保法制に関する自公の与党協議が終わったことを報じている。《読売》《毎日》《東京》三紙が1面トップ、《朝日》は1面左肩に掲載、いずれも関連記事や特集を他面に置いて補う形になっている。
見出しだけで見ると、各紙同様だが、《東京》だけが記者による解説に「立憲主義軽視のまま」と批判的なトーンを滲ませている。1面で論点を明示する報道姿勢が際立つ同紙の特徴が、こういうところにも見て取れる。さて、以下に記事の詳細を見ていこう。
【ラインナップ】
1.安保法制を見る視点、自公間の軋轢だけで本当に大丈夫?
2.言葉の端々に自民党臭が漂ってくる《読売》の安全保障記事。
3.「日米安保条約を逸脱するような政策転換」と見抜いた《毎日》の慧眼。
4.「憲法九条の平和主義を変質させかねない重大な問題」というあまりに正しい評価。
1.安保法制を見る視点、自公間の軋轢だけで本当に大丈夫?
【朝日】の1面トップは「チュニジア襲撃 19人死亡」。首都チュニスで国会議事堂に隣接する博物館が武装グループに襲撃され、外国人観光客17人を含む19人が死亡、武装グループの2人が射殺され、一人が逮捕されたという。犯人たちは一時人質を取って立てこもったという。イスラム過激派と見られている。10面国際面に関連記事。チュニジアが、2011年の「アラブの春」の先駆けとなり、長期独裁政権を崩壊させた国であることが強調されている。日本人観光客が犠牲になっているようでもあり、尾を引く問題となるだろう。各紙も場所は違えども、扱っている。
1面左肩には各紙がトップに掲げる安保法制の与党協議終了についての記事が「安保法制 自公が実質合意」「あす正式決定」「5分野方向性示す」との見出しのもとに置かれている。政府は「5月中旬にも関連法案を国会に一括提出する方向だ」としている。記事は5分野の内容などを展開するが、批判的なトーンは微塵もない。4面の特集記事では、「後方支援」「集団的自衛権」「国際平和協力」の三論点について、それぞれ、自衛隊の活動範囲を広げたい自民党と歯止めを求める公明党の軋轢という視角で整理し、「両者が折り合えなかった課題は4月の法案作成時まで先送りされ、あいまい決着となった」としている。だが、たとえば「国際平和協力」に関して、「国連決議に基づくものであることまたは関連する国連決議等があること」とされ、官僚の常套手段である「等」が際限のない拡大を保証しているように読める。公明党は「法案を作るときに逆転する」としているらしいが、本当は細部に至るまで決着しているのではないかとの疑念を持つ。統一地方選が終わるまでその点は秘密にして、終わった途端に「騙された!」とガッカリしてみせれば総てうまくいくというシナリオがあるのではないだろうか。昨年7月の閣議決定に際して、高村・北側を中心とするウラ会議が大活躍したことを、《朝日》は連載で報じているのだから、少しは自分たちの開拓した新知識を、記事を書くときにも利用したら良いのにと思う。
この4面記事が「自公間の軋轢」のみに注目している以上、仕方がないことかもしれないが、記事中、どこを探しても「違憲」とか「立憲主義に反する」「日米安保条約を逸脱する」というような次元の批判点が示されていないことは、権力を監視する役目を担うメディアとして、明らかに「異常」なことと映る。昨日は「腑抜け」という言葉が浮かんだが、今日もまた同様だ。
2.言葉の端々に自民党臭が漂ってくる《読売》の安全保障記事。
【読売】の1面トップ、「安保法制実質合意」の記事については、微妙な言い回しに注意を払いたいと思う。まず、両党が合意したのは安全保障体制の「全体像」。細部はこれから詰めることを示唆している。また、5分野のうち、集団的自衛権に関しては、わざわざ「集団的自衛権の限定行使」と表現。全面的な行使ではないとの含意は公明党に対する気遣いか、そうでなければ自民党の口惜しさの表現か。さらに、リードの最後の部分、「(法案が)成立すれば日本の安全保障政策上の制約の多くを解消する大きな転換点になる」という書き方には、これまで自衛隊の活動が抑えられてきたことは、「制約」であり、今回の法整備はその制約からの「解放」を意味するとの含意、つまりは法整備を歓迎するとの姿勢が覗く。
*このメルマガでは、「含意」とか「底意」という言葉を多用することになる。「含意」は「意味」と全く同じものとして使われることも多いが、「表面に現れない意味」として使われる。ある言葉や表現を使用するに至った若干深めの事情を指していることもある。さらに「底意」(そこい)は「心の奥に潜む考え」のことで、記者や編集者が意識的にあるいは無意識的に、ある言葉や表現を選択するに当たって前提にしているものの考え方、素朴なイデオロギー、「常識」のようなものだ。彼らが「当たり前」と思い、あるいはそのように思い込んでいるものだ。「客観報道」を標榜する新聞各紙の記事から、これを炙り出すのが、本メルマガの目的の一つだ。
全体としてみた場合、《読売》の記事は至って事務的で、淡々と合意内容について叙述している。恒久法制定にあたって公明党が求めていたとされる「国会による事前承認の義務づけ」については、「国会の事前承認を基本とする」という書き方に。事後承認を例外として認めるか否かの決着は、「4月中旬以降の法案審査に持ち越した」とする。3面の「スキャナー」は関連の解説記事。ここのトーンは、公明党が色々文句を言ったので、法体系が複雑になってしまい、後方支援を大改正する周辺事態法と恒久法の両方で定めるようなことになってしまったと、いわば「自民党の言う通りにすれば良いのに」と言わんばかりの底意が覗く。自民党の愚痴、というのが《読売》のモードなのかもしれない。
もう一つの関連記事は4面に。国会での審議日程や審議時間に関する与野党の思惑が書かれている。
3.「日米安保条約を逸脱するような政策転換」と見抜いた《毎日》の慧眼
【毎日】は事実関係を中心に書いた一面記事に続き、5面の社説では「米軍支援の膨張を憂う」と題し、「日米安保条約を逸脱するような政策転換を憂慮する」と明確な安倍政権批判をしている。日米安保条約のもとに位置づけられた「周辺事態法」を逸脱するからこそ、インド洋での給油やイラク派遣などの際には、特別措置法が必要だったのだという論理は明快だ。もう一歩を進めて、周辺事態法から地理的制約を取り払い、後方支援の恒久法を定めることは、日米安保条約を破棄するに等しいと言って良かったのではないか。いずれにせよ、この論点は、《読売》はもちろん、《朝日》にも見受けられない。
もう一つの関連記事は9面全部を使って「早わかり 安全保障法制」という図表付きの解説。《読売》のところで指摘した「集団的自衛権の限定行使」と似た「集団的自衛権の限定容認」と書いているところがある。これはおそらくは公明党に対する気遣いで、「立派に歯止めとして機能した」と評価されていると、公明党に受け取ってもらえるような書き方になっている。微妙な違いだが、「行使」は自衛隊が主語、「容認」は自衛隊による集団的自衛権行使を限定的にのみ認めてやる「誰か」が主語。その「誰か」は公明党なのかはたまた国民なのかは置いておくとして。
全く関係ないが、17面の「坂村健の目」は凄い話。坂村教授は本当に冴えたひとだなあと思う。詳しくは書かないが、「自動システムと道徳」について坂村さんならではの明快な論理が展開されていて、小生も目が覚める思いだ。
4.「憲法九条の平和主義を変質させかねない重大な問題」というあまりに正しい評価。
【東京】の1面トップの書き方は、「海外で武力行使法案に」との見出しから始まる。「派遣恒久法 事前承認「基本」」と、括弧を付けて「基本」としたのには、批判的な意図が込められている。そして既述の通り、大杉はるか記者による解説の見出しには「立憲主義軽視のまま」とある。「他国を武力で守る集団的自衛権の行使を認めた昨年七月の閣議決定」を踏襲し、「憲法九条の平和主義を変質させかねない重大な問題を、改憲せずに一内閣による憲法解釈の変更で決めた安倍政権」と明快だ。(この当然の文章を、他の新聞で見ることができないのはなぜだろう。実に不思議なことだ。)また、与党協議についても、途中から合意を急いだのは、公明党が26日から始まる統一地方選を意識し、「延々と安保の議論を続ける姿は見られたくないと考えたのが大きな理由だ」という、取材に基づく深い洞察を示している。
《東京》の名物コーナーの一つ「こちら特報部」は、三原じゅん子議員による「八紘一宇」発言をもとに、かなり綿密で広範な取材を展開。議員のにわか勉強が丸裸にされてしまっている。了。
3月18日のuttiiの電子版ウォッチ(無料版) [uttiiの電子版ウォッチ]
【20150318】
【はじめに】
戦後の秩序がガラガラと音を立てて壊れていく、いや、壊されていくのを目撃している実感がある。安保法制だ、日米防衛協力ガイドラインだ、と一つ一つを見てしまえば、何か当然のことが淡々と進められているようにも感じられるだろうが、進行しているのは容易ならざる事態だ。新聞各紙の論調に、そのような時代感覚が反映しているかどうか、その点が非常に気がかりだ。憲法秩序の破壊にいそしむ政権に対して立ち向かうのか協力するのか、あるいは率先して自らも破壊の側に立つのか。貴紙はどっちだ?と、新聞各紙は常に問いかけられているように思う。いよいよ国会で最重要の審議が始まろうかという今、3月18日のuttiiの電子版ウォッチを御覧下さい。
【ラインナップ】
1.自衛隊は米軍と一体化して世界中で戦争に参加するのか。
2.与党協議の結果を見れば公明党が歯止めでないことぐらい誰にでも分かる。
3.廃炉か延長か~危険な再稼働路線まっしぐらの政府と電力会社
4.損得勘定で廃炉決定
1.自衛隊は米軍と一体化して世界中で戦争に参加するのか。
【朝日】の1面トップは「米軍に弾薬提供可能に」との見出しで、日米防衛指針(ガイドライン)の改訂方針を政府が決めたと報じている。4月にも2プラス2で合意するという。中身はひどいものだ。米軍への後方支援を大幅に拡大して、米軍への弾薬提供や戦闘機への給油も可能に。さらに「地理的制約」を取り払い、地球上どこでも米軍への協力ができるようにするという。「連絡体制」も強めるのだそうで、「防衛省の地下にある中央指揮所に米軍幹部が常駐する方向で調整中」だという。なんだ、その「方向」って。
後方支援と言うが、文字通り、「米軍の行う戦争に参加する」ことそのものではないか。「連絡体制」に至っては噴飯ものだ。これでは「連絡」ではなく米軍の「指揮下に入る」のと変わらない。《朝日》は、短いリードの中で、「軍事力を強める中国に対抗する狙いがある」とアッケラカンと書いているが、この新聞社、大丈夫だろうか。さすがに3面には「自衛隊・米軍、進む一体運用」との見出しで関連記事があり、「ちょっとは批判的なのかな?」と思ったが、これが全然違っていて、安倍内閣が進めている安保法制の「整備」とガイドラインの改定を「両輪」として淡々と記すのみ。「客観報道」と言いたいのかもしれないが、これでは「他人事報道」だ。
このままでは、自衛隊が「自衛のための戦力」から、「米軍日本人部隊」へと看板を掛け替えることになりかねない。《朝日》の記者や編集担当者は、それを是認するのだろうか。ごく自然に、「腑抜け」という言葉が脳裏に浮かぶ。
《朝日》の1面は他に、「老朽原発廃炉時代へ」の記事(「本格的な廃炉時代に入った」「電力会社が廃炉しやすい条件が整った」「どこまで廃炉が進むかは見通せない」などと超テキトーな解説付き)、任天堂とDeNAの提携話、アイシンが開発した楽しい電動三輪車の写真付き記事とあり、日本の独立が大きく毀損される事態を迎えているという、一番大事なトップ記事のインパクトを下げる効果を遺憾なく発揮している。
15面のインタビュー記事で、ローマ生まれの対テロ資金洗浄問題コンサルタント、ロレッタ・ナポリオーニ氏は、「ISに対して、日本は局外にとどまるのが最良の選択」と断言している。だが、自衛隊中央指揮所に米軍人が入り込み、地球上どこでも米軍の戦争に参加できる法体制を作り上げようとする安倍政権の下では、「局外」どころか、自衛隊員とISの直接戦闘が行われる事態も覚悟しておいたほうがよいだろう。
2.与党協議の結果を見れば公明党が歯止めでないことぐらい誰にでも分かる。
【読売】は、「後方支援に恒久法合意」「安保法制自公が原案」との見出しで、《読売》が「入手」した原案なるものを報じている。《朝日》流に言うと、ガイドラインと並ぶクルマの「両輪」のもう一方ということになる。正式合意は20日だという。これで、あとは国会で法案を通せばよしということのようだ。「入手」というのは、自民党公明党の側からすれば「リーク」だった可能性が高い。であれば、与党が《読売》を使って、憲法9条はもうなくなったのも同然、戦争への道は不可逆的と国民に思い知らせようというのだろう。安倍政権に批判的な人々からすれば、公明党は全く「歯止め」にならないどころか、安倍政権の進む「戦争への道」を掃き清める役割さえ果たしていることに、改めて気付かされる思いだろう。
他の一面記事。《朝日》と同じく、任天堂とDeNAの提携話を載せるが、こちらは左肩により大きな扱い。原発については、《朝日》が「廃炉」を扱っていたのに対し、《読売》は見出しで「高浜、美浜3基 延長申請」とし、もちろん記事中には廃炉を含めて書いているのだが、ニュース価値は「延長申請」に置くという異様さ。問題のある原発は廃炉にし、安全なものは40年を超えて使い続ける、いわば「選択と集中」によって、安全を図りながらエネルギー供給に責任を持って取り組んでいく云々、という話のようだ。完全に、現時点での原子力ムラの理屈になっている。もともと《読売》は原子力ムラの一部と思っておいた方がよいのだが。
3.廃炉か延長か~危険な再稼働路線まっしぐらの政府と電力会社
【毎日】は、《読売》と同様、「安保法制 20日合意へ」と題して、与党協議が最終合意を迎えるニュースをトップに。一面全体では、原発と任天堂DeNA提携話を加えた本日の「三点セット」のようになっている。ただ、《毎日》の書きぶりは《読売》よりも分かりやすい。「周辺事態法から「周辺」概念を外すこと」、「他国軍を後方支援する恒久法の制定」などで合意があり、「自衛隊派遣に国会の事前承認を義務づけるか」については最終調整が残っていると、内容を整理。
原発については、関電と原電が「廃炉 再稼働にらみ」との見出し。見出しに「再稼働」の3文字を入れたのは優れている。原発を運用してきた電力会社からすれば、現在全て止まっている原発をどこまで再稼働できるかが経営上の最大関心事。廃炉の動き、延長申請の動きとも、この再稼働を見据えてのことに他ならない。3面の「クローズアップ2015」は、その老朽原発廃炉決定の分析をし、「規模小さくコスト高」という経済的な理由から廃炉を決めたとの電力会社の説明を解説している。規模が比較的大きく、新規制基準による安全対策をしても採算が見込める原発は延長申請するというわけだ。新規制基準に合致しさえすればよいのだとすれば、安全を第一義的に考えての判断ではないと言える。原子力規制委員会は新規制基準について、「基準を満たした原発も事故を起こしうる」と言っているのだから。他方、廃炉によって、原発関連の交付金などの収入が激減してしまう自治体の問題も深刻だ。一橋大学の橘川武郎教授の言葉が妙に生々しい。「生き残るには廃炉作業で雇用を生み、送電網を利用して火力発電所を誘致し、使用済み燃料を貯蔵して保管料を得るしか道はない」と。
4.損得勘定で廃炉決定
【東京】の1面トップの見出し、「不適切記載 修正求める」とあるのは、シェアハウスなどに住むひとり親の女性に対して児童扶養手当の支給が打ち切られていた問題の続報。同じ住所にいる男性を、何の根拠もなく「事実婚」の相手と見なすという、全く理不尽な行政行為について、《東京》が指摘し、厚労省も是正するよう指示を出していた。それ以降も、一部自治体のHP上には、「同じ住所に独身男性がいるだけで支給対象外になる」と読める記載があったようで、厚労省が修正を求めたということだ。
原発の廃炉について、左肩に処分場探しや立地自治体財政を巡って「廃炉後の対策 遅れ」との記事。《毎日》のクローズアップと似た趣旨の記事だが、2面の関連記事の見出しは「損得勘定で廃炉決定」とさらにストレート。識者のコメントも、「(福島第一原発については)地域対策として福島県への交付金を続けることにした。他の原発の廃炉にも適用できるはずだ」(清水修二福島大学教授)とか、「政府は再稼働に重点を置いてきたため、廃炉を円滑に進めるための対策に真剣に取り組んでこなかったのではないか」(伴英幸原子力資料情報室共同代表)とクリアーかつ厳しい。
27面の「本音のコラム」。今日の担当は文芸評論家の斎藤美奈子さん。参議院予算委員会で「八紘一宇」を推奨しちゃった自民党の三原じゅん子議員を取り上げている。痛快な文章の白眉は、「侵略戦争を正当化したいという願望がなければこんな無恥な発言は出ないはず」という部分か。全く同感。小生の推測は、三原氏は安部晋三総理に褒めてもらいたくて、にわか勉強の「成果」を披露してしまったのではないかと。笑うべき議員サマだ。了。
3月17日のuttiiの電子版ウォッチ(無料版) [uttiiの電子版ウォッチ]
いよいよメルマガ創刊の4月1日が近づいてきました。
直前まで、出来るだけ本番に近い形で、無料版の発行をブログ上で続けたいと思います。では本日の分を御覧下さい。
【20150317】
【はじめに】
【朝日】は1面トップで、「プーチン氏発言 懸念必至」として、ロシア国営テレビの番組内インタビューで、「クリミアの状況がロシアに不利に展開した場合、ロシアは核戦力を臨戦態勢に置く可能性はあったか」と問われ、「我々はそれをする用意ができていた」と語ったことを大きく取り上げている。絵に描いたような「核による脅迫」だが、潜在的にはあらゆる核保有国がやっていることでもある。そのこと以上に重大なのは、クリミア半島のロシア編入を巡るプーチン氏の政治決断が、クリミアでの住民投票の後ではなく、ヤヌコビッチ政権崩壊直後、既に行われていたこと、特務機関にヤヌコビッチ氏の救出を命じたこと、クリミアの空港や議会を制圧した「謎の兵士たち」がロシア軍兵士だったことなど、これまで「疑惑」とされてきたことを全て認めてしまったことにあるように思う。ロシア系住民が多数を占め、住民投票にもそのことが反映されて「編入希望」が表明されていたことが前提にあるとはいえ、ロシアは軍事力を背景にした領土拡張を躊躇しないことが、当のプーチン氏から表明されたことは意味が大きい。ナショナリズムを操りながら政権を維持する独裁者にとっては当然の行動なのだろう。2面の「時時刻刻」が関連記事になっていて、プーチン発言の詳細、ロシアの戦術核に関する情報、核軍縮や不拡散の流れに対する逆行としての意味などが書かれている。最後に、「今年も国連総会に核軍縮決議案を提出し、唯一の被爆国として核廃絶を目指す方針」だという日本政府の話が出てくるが、年中行事化した「核廃絶の努力」ポーズはしたとしても、北方領土問題の解決を自らの政治的資源と考え「対ロ関係を冷え込ませるわけにはいかない」安倍政権には、プーチン氏を批判できないという「大人の事情」も、控えめに書き加えられている。実に情けない話だ。いや、《朝日》がではなく、安倍政権が、だが。
1面の左肩には、《朝日》が行った全国世論調査の結果が載っている。自衛隊の海外活動拡大については反対が52%、賛成が33%。内閣支持率は4面の関連記事の方に記載があり、前回の50%から46%に微減とのこと。やはり政治とカネの問題の影響があるようだ。4面関連記事の隣には、参院予算委で下村博文文科大臣の「博友会」を巡る追及があったことが報じられている。
【読売】の1面トップは、「免震不足 消防・病院でも」として、東洋ゴムが国の基準を満たさない免震ゴムを製造していた問題を取り上げている。《読売》の調査で、この免震ゴムが使われている建物のうち、官公庁などの具体名が判明。そのなかには地震発生時の対応拠点となることが想定されている自治体や警察、消防、病院の建物が含まれていたという。2005年に発覚した「耐震偽装事件」はデータ改ざんによる構造計算書の偽装だったが、今回は免震ゴムの試験データの改ざんによる申請書の偽装。いずれもカネのために「不良品」を安全と偽ったことになる。
民間のマンションで強度不足の免震ゴムが使われてももちろん問題だが、震災時の避難所の耐震性が不足していたのでは洒落にならない。39面には「うちは大丈夫か?」という東洋ゴムへの問い合わせが2000件を超えたとの関連記事。
この日の《読売》1面は、トップ記事よりも左肩、「消えぬ脅威
地下鉄サリン20年」特集の第一回の方が重い。1面と38面を使い、死刑執行を引き延ばさせようとするオウム側の「作戦」に照準している。1面の部分では、小池泰男(旧姓林)死刑囚が裁判で教祖や教団を否定する発言をしておきながら、教祖の三女との手紙のやりとりで、再審請求のやり方を指南し、教祖の死刑執行を引き延ばそうとしているとの主旨。《読売》は、三女が小池死刑囚との面会を求めた裁判で証拠として提出された手紙を閲覧したと、情報の出所を明らかにしている。38面では、オウムによるもう一つの死刑執行引き延ばし戦術として、他の被告人への証人出廷をあげ、実例を挙げている。平田被告の出頭理由もそのようなことになるらしい。平田被告自身、公判廷で「(自分の出頭によって)麻原以外の執行を勘弁してもらえるのではないか、という気持ちもあった」と述べている。
31面は全面で「地下鉄サリン事件20年」と題した図解入り特集記事。他に39面で、麻原が逮捕されたときに、隠し部屋に隠れていて発見されたときの未公開写真なるものを三枚掲載、さらにサティアン全体と隠し部屋の場所を示した模式図も付けている。《読売》が言いたいのは、オウム事件は終わっておらず、弟子たちは今も麻原の支配下にあって、復活を狙っているということのようだ。そして記事のトーンは、そのようなオウムの死刑囚たちに対して、早期の死刑執行を望む遺族ベースのものとなっている。今日の《読売》は徹底してオウムを押し立てる風情だ。オウムの問題は決して終わっていないと筆者も思うけれど、分かりやすい「社会の敵」をクローズアップする狙いは、しばしば権力に不都合な何かを覆い隠す際に用いられる常套手段だということも忘れないでおこう。
地下鉄サリン事件からまる20年を迎える20日に掛けて、各紙のこの事件に対する見方の違いがクリアになっていくだろう。
【毎日】は、「無投票の首長5割」との大見出し。「日本創生会議」が昨年推計した「消滅可能性都市」の上位100のうち、52の市町村で直近の首長選が無投票だったとしている。地方の衰退が民主主義の形骸化をもたらしているというのがこの記事の結論のようだ。該当する自治体名が全て紹介されている。そのうち半分の26市町村は二回以上連続で無投票。北海道の妹背牛町と津別町は5回連続で無投票だったなどなど、関連するデータをあれこれ弄りながら色々な数字を揚げているが、要は、高齢化や過疎化が「民主主義の基盤の揺らぎにもつながっている」と言いたいようで、その結論に筆者も異論はない。だが、あまりにもテクニカルな前提が多すぎて、無理矢理結論を引いているように見える。そもそもが、「有識者会議」の報告書をもとに「消滅可能性都市」を取り上げ、なぜか100位までの都市だけを取り出すというあたりに、人為的なものを感じてしまう。最後に、「消滅可能性都市」についてまとめた座長の増田寛也元総務大臣のコメントを紹介し、「自治力の低下」「無投票が続けば危機が人ごとになり、無力化や地域の沈滞化を招き、その地域がより消滅に近づく」と語らせている。この記事に関連記事が付いていないことから想像すると、記者が増田氏と話していて、「消滅都市の首長、無投票が多いんだよね」と語ったことをもとに、記事を一つ書き上げたという雰囲気が濃厚だ。本来なら、もっと詳細なデータの分析か、あるいは妹背牛町や津別町のルポがどこかに載っているべきテーマだろう。記事テーマの本体部分が抜け落ちてしまっている。
【東京】は、20日に事件からまる20年を迎える地下鉄サリン事件についての特集の第一回目。「暗雲いまも 地下鉄サリン20年」を掲載。毒物学の権威で松本サリン事件の捜査協力もしたアンソニー・トゥー氏がオウム真理教の幹部だった中川智正死刑囚との七回目の面会に向かったという書き出しだ。他にも、米大統領にテロ防止対策を助言するシンクタンクの会長は、中川死刑囚と土谷正実死刑囚に十数回会っているという。記事のテーマは「オウム犠牲
学ばぬ国」。議会の独立調査委員会が911について、「CIAがテロを防ぐチャンスを10回も見逃した」と指摘し政府を批判する報告書を出したアメリカ。この点での彼我の差は覆うべくもない。記事の中には「大きな犠牲から何かを学び取ろうという謙虚さが日本の行政組織には欠落している。」とストレートだ。
2面の「核心」では、オウムの二つの後継団体「アレフ」と「ひかりの輪」がネットを活用して若者たちを入会させ資産も増やしている現状にあるにも関わらず、被害賠償が進んでいないとしている。
【補遺】
自民党の三原じゅん子参議院議員が「八紘一宇という考え方を紹介したい」と委員会で発言し、物議を醸している問題。《朝日》は社会面38面の下に、《毎日》は5面政治面のベタ記事扱い、《東京》は2面に写真入り二段記事。《読売》は掲載していない。
3月13日のuttiiの電子版ウォッチ(無料版) [uttiiの電子版ウォッチ]
遅くなりましたが、2015/03/13の分です。
お時間がありましたら、どうぞ御覧下さい。
【20150313】
【はじめに】
記念日という言い方は適切ではないのかもしれないが、一昨日の311のような「記念日」がやってきてはやがて過ぎ去っていく、その度に時間の連続性とその残酷さを思い知らされる。季節が巡り、同じような気候が戻ってくれば当然のように甦る過去の懐かしい思い出、そして忌まわしい出来事。だが、本当は何も戻っては来ない。時間はひとつながりに、ただ過ぎていくだけ。せめて、忌まわしき出来事が再び襲ってこないように祈り、また、襲われたとしても、未来の自分と家族、地域社会が押し流されてしまったり、邪悪な何者かに浸されて近寄ることも出来ないようになったりしないよう、世の中がもっと人の命を尊ぶ姿に生まれ変わって欲しいと願い、行動することしかできないのだ。
以下に、震災後4年と2日後の「電子版ウォッチ」を。
ラインナップ
1. 地方議員政活費の徹底調査が暴き出すものは?
2.《読売》が熱心なのは津波対策のみ?
3.「みなし仮設住宅」の住み替えを求める悲痛な声の意味。
4.辺野古の海に出現した「怪物」の正体。1.
地方議員政活費の徹底調査が暴き出すものは?
【朝日】の1面トップは、「政活費廻り5000万円修正へ」との記事。47都道府県議会の議員で政務活動費を支給された2700人を《朝日》が独自に調査し、その使途を明らかにした結果、「不適切な処理」や「疑問が生じる事例」が見つかり、収支報告の修正総額は5000万円にのぼるという。
都道府県議会議員に支給されている政務活動費の総額は13年度で121億円あまり。修正が必要な金額の割合は高くないが、こういう地道な調査活動には、それ自体の意味に加えて、さらに大きな問題の入り口を発見することにつながるという期待もあるのだろう。《朝日》は、「昨年9月から、議員全員の収支報告書と領収書類の写し計63万枚などを分析し、疑問が生じた支出について今年1月下旬から議員や支出先に取材した」というから壮大だ。統一地方選を控え、地方議員たちはとりわけ「政治とカネ」の問題に敏感になっており、またつながりのある国会議員たちも同様だろう。明日以降、どんな「ネタ」が出てくるのか、楽しみにしていよう。おそらく「副産物」は山のようにあるはずだ。2面には調査の詳細が、地方議員の実名とともに掲載されている。当たり前だが、この姿勢は正しい。
1面左側には「政権、移設推進鮮明に」と、安倍政権が、沖縄県の辺野古への普天間基地「移設」を強行しようとしているとの中身の薄い記事。まあ、沖縄だったら遙か以前から毎日大きく取り上げられている問題だから、逆に唐突感が否めない。3面関連記事では、「移設阻止
決め手欠く翁長知事」との見出し。知事は「有効な対抗策を打ち出せずにいる」とか「与党内には、翁長氏の手法に物足りなさを感じる雰囲気も漂い始めている」というように、「無駄な抵抗」と言わんばかり。工事進捗を求める海兵隊司令官の発言や、「(知事は)地元の支持を取り付けるためには『移設反対』と言い続けるしかない。面会しても意味がない」との官邸サイドの発言は当然視して紹介しているところを見ると、辺野古新基地建設問題に対する《朝日》の姿勢はハッキリ政権寄りと判断されても仕方あるまい。記者の一人は政治部のようだから、《朝日》の政治部で何かが起こっている証左なのかもしれない。
バランスをとった形なのか、17面全面を使った「オピニオン」では、沖縄生まれの芥川賞作家である目取真俊さんへのインタビュー記事が載っている。タイトルは「対立の海で」。目取真さんは、芥川賞を受賞した『水滴』で戦争の記憶、沖縄戦をテーマとした。基地問題についての政府の対応に「怒りなんか通り越して、もう憎しみに近いと思っていますよ」。「残された手段は、もう工事を直接止めるための行動しかない。他人任せではなく、自分がやるしかないんです」と語る。取材の日も、立ち入り禁止区域にカヌーで入って抗議を続けた。「安部晋三首相が沖縄県民の代表である翁長知事に会うことすら拒んでいるのは、権力による形を変えた暴力です」との言葉は多くの県民が抱いている気持ちを表している。インタビューをした萩一晶記者は、目取真さんの「憎悪がばらまかれている」という言葉に現状の深刻さを感じ取ったようだ。「安倍首相は、まずは翁長知事と会うべきだ」との「提案」は、あまりにも当然だが、正しい姿勢だと思える。
2.《読売》が熱心なのは津波対策のみ?
【読売】は、「津波警戒域 指定進まず」の記事が1面トップ。《読売》の調査によって、法に基づき「津波災害警戒区域」を指定したのは徳島県のみで、指定の前提である「浸水想定」も対象となる海岸線を持つ都道府県の過半で行われていなかった。「地価下落やイメージ悪化への懸念が住民や自治体に根強い」のが背景だと分析している。
一般に、ある危険が大きいか小さいか、切迫しているのかそうでないのか、ということを判断するのは難しい。被害があまりにも甚大な地震や津波、そして原発事故に対しては、十分すぎるほどの対策を採っておくべきだというのは国民的な合意になってしかるべき事柄だろう。だが実際には、確率的に小さいという思い込みが、必要な対策を渋らせる障害となって立ち現れてくる。《読売》は、津波に対する警戒とその対応を自治体に迫るような記事を書くなら、同様に、原発事故に対しても厳しい目を注ぐべきだろう。各紙、電力各社が古い原発5基の廃炉を決める方針との記事を載せており、《読売》も例外ではないが、原発事故に対する同紙の姿勢が垣間見えるような材料は、特に見当たらない。
3.「みなし仮設住宅」の住み替えを求める多くの声は、何を意味しているか。
【毎日】は、東電福島第一原発事故で県外に出て「みなし仮設住宅」に居住する避難者が住み替えを求めた場合の対応について、バラバラの対応になっている点を記した記事。これまで、県民健康調査を巡る様々な疑惑や、「こども被災者生活支援法」が骨抜きにされている現状などを鋭く告発してきた日野行介記者らの手によるもの。一見、ニッチな問題設定に見えるが、そうではない。みなし仮設の形で入居している例は、仮設全体のおよそ55%。つまり、過半が「みなし」仮設なのだ。仮設は原則2年間、激甚災害である今回は1年ごとの延長が可能だが、いずれにせよ扱いは「仮設」、つまりは避難の状態にあるという位置づけだ。ところが、その避難が長期化し、生活に実態が備わっていくにつれ、たとえば近隣トラブルなどの問題が大きな問題になっていく。福島への「帰還」を希望する人々のなかでも、新しい土地での生活の時間が長くなるにつれ、そこで生じた新しい問題に対処し、次第に「より快適な住まい」を求める気持ちが強くなってくる。この住み替えを巡っては、「全国知事会や山形県が柔軟な運用を認めるよう国に求め」、また日弁連も弾力的に転居を認めるよう求める意見書を出しているという。
この記事に対応して、やはり日野行介記者らによるルポ「避難者漂流」が社会面(31面)に掲載されている。
4.辺野古の海に出現した「怪物」の正体。
【東京】は、「沖縄の民意無視」との大見出し。「辺野古の海底調査再開」を1面トップに。再開された海底ボーリング調査の模様を上から撮影した写真を掲載している。この写真が実に不気味だ。黄色の海上フェンスと数珠つなぎになったピンクのブイに縁取られ、グリーンの防護シートでくるまれた四角のプラットフォーム、その角のそれぞれからは触覚のような細い柱が突き出している。この奇怪さは、珊瑚を食べ尽くして恐れられたオニヒトデのようでもあり、その醜さは安倍政権の「民意無視」の傲岸さを示して余りあるように思われる。今回の調査強行について菅官房長官が「一昨年、十六年前に時の沖縄県知事から承認をいただいた。それに基づいて粛々と工事をしていくのは問題ない」と発言したことに対し、記者自身が「こさとら過去の一時期の政治決定を盾にして、現在の民意を無視していることにほかならない」と弾劾している。29面「本音のコラム」では、沖縄出身の作家度元外務相主任分析官の佐藤優さんが「オール沖縄の支持を背景に近く翁長知事が岩礁破砕許可を取り消すと見ている」と書いている。この大問題を書き続け、伝え続けているのは《東京》のみだという点に、情けなさを感じるのは筆者だけだろうか。了。
3月12日のuttiiの電子版ウォッチ(無料版) [uttiiの電子版ウォッチ]
日の境を超えてしまいました。とりあえず3月12日の「電子版ウォッチ」をアップします。もうあと2時間半もすれば3月13日付け朝刊が出そろう時間帯です。とりあえずお休みなさい-。
【20150312】
今朝の各紙は、昨日各地で行われた追悼行事の取材を元に、ほぼ一様に「鎮魂」のイメージで綴られている。だが、詳しく観ていくと、それぞれに際だった特徴のあることが分かる。 悲しいことだが、《朝日》の劣化ぶりには本当にガッカリさせられる。
1.またしても生煮えの朝日記事
2.「安全」に「風評」、なぜ括弧をつけるのだろう?
3.震災の日の翌日くらい、311で1面を埋めてみたらいいのに。
4.式典を丁寧に報じようとすれば、こういう形になる。
1.またしても生煮えの朝日記事。
【朝日】の1面には、宮城県南三陸町の、骨格だけが残った防災対策庁舎の前で手を合わせる人々の姿が紹介されている。その下には、政府主催の追悼式で宮城県代表として追悼の言葉を述べた菅原彩加さんが写真入りで紹介されている。石巻で暮らしていた当時15歳の菅原さんは、がれきに挟まれて動けなくなっていた母を助けることができなかった痛切な体験を語っている。この菅原さんについては、《東京》も1面の記事の中で、写真入りで紹介。ジャーナリストを目指して今春から大学に通うという。
《朝日》の1面、写真下には原発関連の記事。福島県内の約3600カ所のモニタリングポストのうち、88%で目安となる毎時0.23マイクロシーベルト(年1ミリシーベルトに相当)を下回っていたことが分かったという。同時に、第一原発周辺で役場ごと避難中の大熊町や双葉町など7町村で目安を下回ったのは22%。最高値は大熊町内の18.30マイクロシーベルトだったと記している。
関連記事が2面にあり、福島県内の空間線量について地図や図表が掲載されている。見出しは「線量低下
福島まだら」。観光業の現状、帰還困難区域の高い線量についての取材記が付いているが、記者は「視点」と名付けられた論評部分で、「国や県は、現在、公表している生データに加え、情報のより分かりやすい示し方を工夫すべきだ。我々も、より多くの客観データに基づいて福島の現状を見つめ、未来を考える土壌を作っていきたい」と言っている。この部分はあまりにも不十分なまとめと言わざるを得ない。総理や官房長官が海への汚染の広がりについて「コントロールされている」と虚言を弄し続けていること、東電は汚染水の漏出についてこの間も情報を隠蔽し続けていたこと、自主避難者の生活支援、あるいは健康調査について定めた「こども被災者生活支援法」が政府によって骨抜きにされていること、そして低線量被ばくについての不安、除染の効果についての疑義など、まとめの中で触れなければならない事柄は山ほどあるのに、一つも言及がない。《朝日》は行儀良く「情報のより分かりやすい示し方を工夫すべき」などと提案するが、そんな課題は、官僚が1時間も残業すれば片付いてしまうようなことではないか。原発事故についての基本的な「怒り」を忘れた記事など、何の意味があるのかと問いたい。
2.「安全」に「風評」、なぜ括弧をつけるのだろう?
【読売】も、1面トップは「鎮魂の日 誓う復興」との大見出しに、宮城県石巻市で児童と教職員併せて84人が犠牲となった大川小学校で黙祷する遺族らの写真を掲載。その下の写真には、政府主催の追悼式で黙祷する天皇皇后の姿。3面のスキャナーには、原発事故関連記事として、「福島産「安全」なのに」「魚・コメ・肉…「風評」消えず」との見出しで、福島県産農水産物の回復傾向が著しいのに、「一度生じた風評被害の克服は容易ではない」との記事。漁業では、試験操業で漁獲できる魚種が大幅に拡大できる状況になったのに、汚染水の海洋流出が発覚、「また消費者が離れかねない」(漁協組合長)。コメも全袋検査を続けていて規制値越えのものもなくなったが、値段は全国平均よりもかなり低い。桃でも牛肉でも事情は同じ。消費者庁の調査で「福島県産の食品購入をためらう」と答えたのは今年2月でまだ17.4%もある。意識は簡単には変わらない、と。
《読売》はシンプルに「福島産は安全」という前提で記事を作っているのかと思ったが、ちょっと違うのかもしれないと思われた。この見出しが物議を醸しかねないのだ。「安全」、「風評」と、いずれも括弧がついているからだ。括弧付きの「安全」は、本当は安全かどうか分からないという意味であり、同様に「風評」は、デマではなくて本当かもしれないという意味だろう。《読売》は、安全性に疑問を持っていると匂わせたいのだろうか。他方、記事の中身は「福島産は安全」という見方に貫かれているので、この見出しでは、それこそ記事への疑念を招き、かえって風評を助長することになるのではないか。取材原稿を書いた記者が、編集担当のデスクに向かって「なんで括弧なんか付けるんですか?!」と怒鳴り込んでいるようなら、まだ救いはあるのだが。
原発事故は、政府やメディアへの信頼を大きく傷付けたが、同時に、科学と科学者に対する不信感を著しく強めることになった。規制値以下であれば本当に安全なのかと人々は疑問に感じているのではないか。「君子危うきに近寄らず」を地でいけば、福島の産品は敬遠するという行動パターンが選択されがちであって、そのことで誰を責めることもできまい。福島県の生産者には厳しい時代が続くが、政府やメディアだけでなく、科学と科学者への信頼も回復していかなければ、根本的な問題解決、つまり福島産の食べ物を低く見るような傾向が払拭される日は遠いような気がする。また、虚言と隠蔽を事とする政府が「食べて応援」と言ったところで、信じてもらえるわけもない。遠回りのようだが、安倍総理は何よりも早く、事故が収束していないこと、汚染水はコントロールされていないことを認め、その対策に全力を傾注することが、福島県産品の信用を回復していく早道なのではないか。《読売》にも、そんな風に政権を叱りつけてもらえないものだろうか。
3.震災の日の翌日くらい、311で1面を埋めてみたらいいのに。
【毎日】も、基本的には鎮魂のイメージで他紙と並んでいる。宮城県名取市の追悼式で、母と妹を失い、今年19歳になった浜田さんが取材に答えている。紙面のその下には、石巻市で息子を亡くした夫婦が、遺体が発見された場所に花を手向け、涙する姿。ところが、さらにその下になると、一転して「中国工業生産伸び鈍化」の記事。確かに大きなニュースではあるが、この並びには違和感を否めない。しかも、この記事に関連が付いていて、そちらは6面に飛ぶ。中国経済についての主要指標の解説、中国での販売台数を下方修正したホンダの話などが載っている。最初からここに記事全部を持ってくれば良かったのにと思うのは私だけだろうか。そうしなかった理由は、さっぱり分からない。こと、この日の1面に関しては、津波による犠牲と鎮魂たけでなく、原発関連の記事を持ってくることで、バランスが保たれると思うのだが(《朝日》は実際にそうしていた)。
4.式典を丁寧に報じようとすれば、こういう形になる。
【東京】は、宮城県の遺族代表として政府主催の追悼式に出席した菅原彩加さんを大きく取り上げた。読み上げられたメッセージの全文を紹介し、彩加さんについての記事が横につけられている。彩加さんはこの春から慶応大学総合政策学部に進み、ジャーナリストを目指すという。2面には、同じく式典に参加した福島県と岩手県の遺族代表の言葉が全文掲載され、やはり、それぞれについて解説が付けられている。福島県代表の鈴木幸江さんは、浪江町請戸の実家に暮らしていた父母と弟を津波で失ったが、原発事故の影響で一ヶ月間、捜索も行われず、父母は今も行方不明のままだという。記事は、鈴木さん自身の言葉の中からは想像しきれない、もどかしさや不条理の感覚を説明している。岩手県代表の歯科医、内舘伯夫さんは介護施設で働いていた父を失った。自身は遺体の身元確認に当たり、「同級生や近所の人」を大勢確認して「それ以上、続けられなかった」と辛い経験を記者に語っている。
三人の遺族代表の言葉を全文掲載したのは《東京》だけだった。それぞれに遺族代表本人に対する取材で、式典での言葉を補うような作りにしたのは実に丁寧な扱いだと感じた。
2面には天皇の言葉(全文)と、安倍総理の式辞(要旨のみ)も掲載されている。天皇の言葉の中には、教訓として「日頃の避難訓練と津波防災教育がいかに大切かを学」んだことと、その教訓を子孫に伝えていくことの重要さの指摘があり、他方、安倍氏の言葉の中には、「震災の教訓を無にしない決意で、全土にわたって災害に強い強靱な国作りを進めていきます」という、公共事業に関わると思われる部分があった。
uttiiの電子版ウォッチ(無料版) [uttiiの電子版ウォッチ]
出先からのアップです。色々間違いがあるかもしれませんが、とりあえずお届けします。タイトルを考える時間がありませんでした。明朝までに加筆修正するつもりです。
【20150311】
〔はじめに〕
東日本大震災から4年の今日、各紙は当然のように震災と原発事故関連のニュースを集中的に掲載している。しかし、いつもと同様、その「載せ方」、分析の視点は様々で、実に「個性的」だ。犠牲者を思う遺族や友人たちの癒えぬ悲しみ、あるいは故郷への帰還を熱望する数多の声、他方で、移住して新天地に期待する決意。それぞれの個別ケースを通じてそれらのことが語られるなか、課題として各紙ほぼ共通して指摘するのが「復興の遅れ」だ。では、各紙が指摘する「復興の遅れ」の中身は何だろうか。今日の各紙を評価する視点はそれ以外にはないだろう。
【朝日】、1面トップの写真は印象深い。岩手県陸前高田の「奇跡の一本松」後方、かさ上げ工事に使われる巨大ベルトコンベアーが漆黒の夜空を背景に光っている。夜間も稼働しているのだろう、ヘルメット姿の作業員の姿も小さく写っている。「復興へ光を」の大見出しの横に添えられた短いリードの主旨は、「災害公営住宅の完成が15%にとどまる」との一点だ。いまだに23万人の人々が仮設住まいを余儀なくされているという、信じがたいような現実。その数の多さには「復興の遅れ」などという冷静な言葉は似つかわしくないと思われるほどだが、とにもかくにも、《朝日》は、今も避難を続ける数多の被災者に思いを寄せた作りになっている。メディアとして正しい選択だと思う。
だが、1面全体で観ると、どうもピントがずれているように感じられる。1面。写真の下に、東北復興取材センター長という肩書きの仙台総局長によるコラムがある。「4年 見えてきた現実」とのタイトル。復興の形が見えてきたからこそ実感される三つの現実なるものについて書かれている。三つとは、「高齢化」「過疎化」「原発問題」。なるほどと思わせるが、その次元に戻ってしまうのはどうなのか。三つとも、「見えてきた」のではなく、震災前から「存在する」大問題。そこを解決してこなかった我々の社会の問題に切り込んでいただきたいものだ。しかも、結論はヤケにシンプルだ。「広域かつ多様な現場に、共通の正解などない」ので、自治体への権限と財源の委譲を求め、「その先に、もっと住民が主役だと実感できる復興がある」という。「気の利いたこと」を言いながら、実は何も主張していないという、時折見かけるタイプの論説になっている。
それにしても、《朝日》はもっと何か特別な日だという印象を読者に持ってもらう工夫はなかったのだろうか。朝刊全体、あまりにもお行儀が良すぎる。
【読売】は、ある意味で、実に分かりやすい。1面トップの見出しは「防潮堤37%未着工」。「復興の遅れ」に関して、《読売》が最大の問題と考えたのは、どうやら土木公共事業そのものの遅れだった。対応する記事が2面3面に展開されていて、「復興 防潮堤待てず」「街づくり先行 住民不安」などの見出しが躍る。記事の中身は、要するに「早く以前より高く頑丈な防潮堤を作らなければ大変だ」という話。地震や津波を「かわす」とか「いなす」という発想はどこにも出てこない。さらに、「防災技術 官民で輸出」(!)の記事には驚かされた。この奇妙さはいったい何なのだろうと考えて、ハタと思いついた。これはつまり、最近あまり聞かれなくなったけれども、アベノミクスの第二の矢「公共事業」(ないしは「国土強靱化」)と第三の矢「成長戦略」の復興バージョンなのではないか。大津波の恐怖を言い立てることによって批判を封じつつ、巨大公共事業をそれこそ津波のように推し進め、併せて、成長戦略のもとに様々な規制緩和を強行したり、あるいは使えるモノは何でもとばかり「輸出産業」を仕立て上げたり。安倍政権の設定した枠組みで現実をスキャンし、安倍政権の方針に従って問題を設定する。まさしく、「新聞界のNHK」とでも言いたくなる徹底ぶりだ。こんな記事ばかり読まされていたら、政府から見て、実に「物わかりの良い」国民ができあがることだろう。そこが本当に心配だ。
【毎日】は、1面トップに「私の決意」と題した特集を置く。震災後の石巻で医療に従事して過労死し、のちに震災関連死と認定された外科医の娘が、父の意志を継いで医療ソーシャルワーカーになりたいとの夢を語っている。彼女の弾けるような笑顔が印象的な1面。震災4年の日の《毎日》は、各面、原則、見開きの左右両端に「私の決意」を配し、震災を契機に「新たな行き方を見つけ、一歩を踏み出そうとする人たちのメッセージ」が掲載されている。1面の女性を入れて、全部で20人へのインタビューを紹介している。
1面左に「再生エネ30年2割超」記事。経産省が、電源構成を議論する有識者委員会に示した見通しについてのニュース。買い取り制度を骨抜きにした安倍政権のエネルギー政策の行き着くところが、こんな「数値目標」になっていくということは記憶しておく必要がありそうだ。もう一つ、1面下の「余録」(《朝日》なら「天声人語」、《読売》なら「編集手帳」、《東京》なら「筆洗」に当たるコラム)で、「復」と「興」の二文字を、その字義からひもとき、「復」は死者を呼び返すという意味、「興」には地面に酒を注いで地霊を呼び起こす儀式という意味があることを紹介している。白川静「字統」を使ったコラムは目新しいものではないが、311の日に相応しい内容になっている。
【東京】は「東日本大震災4年」のバナーを朝刊各面の関連記事の場所に全て配置し、全体に統一感を持たせる工夫をしている。
1面トップに掲載された写真は、夜間、自社の航空機から撮影されたもの。高度9000メートルで、福島第一原発から東京都心を見晴るかす、壮大な構図。写真のタイトルは「復興
途切れ途切れ」。確かに、福島県内に見える光の塊は、事故収束に向けた作業が続く第一原発周辺と第二原発、あとはいわき市ぐらいで、遠くに見えているのは栃木県宇都宮市の光、そして光の渦が反射して雲に照り映えるほど明るい東京都心。対照的に、福島県内、原発20キロ圏内の多くは闇に閉ざされているかのように暗く、また光の点があっても線につながらない。東京中心の「繁栄」が何を犠牲にして成り立っていたか、まざまざと見せつれられる思いだ。
同じように、途切れ途切れながらも、福島から東京に続く細い光の道。確かに写真に写っているのは全線開通した国道6号の光に違いないのだが、むしろ、かつて福島の10基の原発から東京に送られ続けていた電気の幻のようにも見える。原発と福島にまつわる問題を徹底して追い続けてきた《東京》の出発点が、この映像に凝縮されている。この写真を冒頭に掲載したところに、東京を本拠とし、東京新聞と名乗り続けてきたこの新聞社の決意のようなものを感じる。
4面に、城南信用金庫の吉原毅理事長と東京新聞の井上能行編集委員の対談(上)が載っている。人助けを「本業」と捉え、これまで役員職員を問わず1000人を東北での支援活動に派遣してきた城南信金の吉原理事長と、福島駐在の専門編集委員としてずっと福島を取材し続けてきた井上編集委員の対談。《東京》から東北へ、資金や人の流れを持っていくことの重要さを認識させられた。(井上さんは私が『デモクラTV』で東京新聞とともにプロデュースする『熟読!東京新聞』(毎月第3木曜日21時から1時間の生放送)の常連出演者。3月19日の『デモクラTV』にもご出演予定。)
補遺
《朝日》。メルケル発言についての海外メディアの反応記事が面白い。中国や韓国のメディアが「過去の直視を忠告」という内容で報じたのは想像通りだが、ヨーロッパのメディアがメルケル氏は「外国への助言がしばしば逆効果になると知っており、日本批判を敢えて避け、ドイツの選択の正しさを説明する道をとった」とし「礼儀正しく批判を試みた」(南ドイツ新聞)とか、氏の発言を、近隣諸国との緊張関係を抱える安倍政権に過去との向き合い方を暗に助言したものと捉えて報じたりしているという(BBC)。さらに英フィナンシャルタイムズ紙は、「日本が第二次世界大戦をどう記憶するかの議論に介入した」と報じたという。
《朝日》や《東京》を除く他の日本メディアの多くが、歴史認識問題について「メルケル氏は注意深く距離を置いている」としか書いていないのと実に対照的だ。「日本のメディアは震災後4年経っても、まだ嘘を付き続けている」と指弾されているような気がする。
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さて、今日の「uttiiの電子版ウォッチ」(無料版)、お時間がありましたら是非どうぞ。
【20150310】
10万人以上が犠牲となった東京大空襲から70年の今日、ドイツのメルケル首相訪日を各紙はどのように伝えたか。ハッキリと新聞の「個性」が現れ、際立った違いを見せた3月10日の朝刊紙面。一つ一つ紹介、分析していこう。
ラインナップ
1.メルケルは安部と天皇に会うためにやってきた。
2.7年ぶりか、1年に5回も電話会談している、か。
3.ドイツ首相はバランスの人か?
4.震災関連死の3人に2人は原発関連死
1.メルケルは安部と天皇に会うためにやってきた。
【朝日】のメルケル訪日記事は、なかなか興味深い作りになっている。大見出しは縦に「日独首脳、ウクライナ安定へ連携」と置きながら、それよりも大きな文字で横に「過去の総括、和解の前提」と掲げている。少なくとも客観的には、歴史認識問題が最重要な論点であり、この訪問の「キモ」は歴史認識問題だったという評価だ。写真も、共同会見のツーショットだが、諄々と何かを説いている風情のメルケル氏の横で、叱られて呆然としている体の安倍氏の顔が後方に見えている。意味はハッキリ伝わる。
一面記事後半の中見出しには、「踏み込んだメルケル氏」として、「今回の訪日で歴史認識にここまで言及するとは、事前には予想されていなかった」と朝日記者も踏み込んでいて、「日中韓の緊張が、地理的には遠く離れたドイツにも看過できない現実的なリスクになっていることの現れ」とまで言っている。
冒頭の短いリードの後には、朝刊紙面6カ所に関連記事のあることが示され、ワンクリックでジャンプできるようになっているのだが、ここにも一つの主張が込められている。「2面=日独の距離感」「6面=技術協力に意欲」と続き、社説を経て最後は「38面=天皇陛下と会見」とある。38面の記事は親しそうに会見する天皇とメルケル氏、通訳のスリーショット。メルケル氏は「今年は戦後70年であり、戦争がない時代を望んでいたが、現在ウクライナで深刻な事態が生じていて心配している」と言及。天皇も「日本にとっても戦後70年の年だ」、「長崎、広島の原爆は影響が長く続いている」と話したという。(天皇との会見を報じたのは《朝日》だけではなかったが、《読売》は故ワイツゼッカー元大統領との思い出話とウクライナの事態が早期に解決することを願う云々のみ。《東京》も同様の内容ながら、朝日が報じた戦後70年と原爆の影響についても記している。《毎日》は全く報じなかった。)天皇とメルケル氏の会見を報じた三社の記事は、いずれも天皇を主語として書かれてはいるが、《朝日》の場合は1面で関連記事を示すところに「天皇陛下と会見」としている。つまりメルケル首相は安部首相だけでなく、天皇にも会いに来たのだということが表現されている。その天皇は年頭に当たって、戦争がもたらした多くの犠牲に触れ、「満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、今、極めて大切なこと」と述べた人であることを、メルケル氏はもちろん承知していたことだろう。このことを見ても、メルケル訪日の最大課題が歴史認識問題であることを窺わせる記事となっている。
2.7年ぶりか、1年に5回も電話会談している、か。
【読売】は、メルケル訪日をもっぱらウクライナ問題と国連安保理改革、対「イスラム国」などへの対処が目的だったと言い切りたいらしい。「歴史認識」や「原発」といったテーマについては、1面からは完全にスクリーンアウトされている。三面の「スキャナー」でもメルケル訪日は大きく扱われているが、両首脳は「昨年一年間、電話を含め5回の会談を実施」、「会談でも互いに「シンゾウ」「アンゲラ」とファーストネームで呼び合うなど、和やかな雰囲気に包まれた」と、読んでいて気分が悪くなってくるような文章。無理矢理仲良しにしないでも良いだろうに。
気になったのは「ウクライナ紛争や「イスラム国」対策などで、国際社会の脅威に立ち向かう姿勢を明確にしてきた」ドイツが、「積極的平和主義を掲げる日本との連携」を重視していると記したあたりだ。そのうち「日独同盟」などと言い出しそうな勢いだ。とくに「イスラム国」と戦うクルド人部隊に対する武器供与実施のくだり。紛争地域への武器供与を自粛していたドイツが方針転換をしたと強調する文面は、安倍内閣による「武器輸出禁止3原則」の撤廃に通ずる話。「ドイツだってやっているのだ」と強調したいようだ。歴史認識に関する記述も末尾に若干記されているが、あくまで「東アジア情勢」「安保環境巡り議論」という枠内での記述。「日本と中国、韓国両国が対立する戦前・戦中の歴史認識問題を巡っては、メルケル氏は注意深く距離を置いている」との評価。これは《毎日》にも共通する書き方だが、《朝日》とは正反対の評価ということになる。
3.ドイツ首相はバランスの人か?
【毎日】も《読売》同様1面にはウクライナ問題だけで、原発と歴史認識については全く触れず。三面の関連記事のなかで歴史認識の問題に触れる。だが、会談では、ナチスドイツの行為の検証という経験について「短く触れた」のみという評価。日中韓それぞれと友好関係を維持したいので、三国間の対立とは距離を置きたいという読み込みをしている。
なお原発については、前日の講演のなかで「(福島のような事故が起きたのを目の当たりにし)予想できないリスクが生じることを認識した」とメルケル氏が言っていることに注目。会談の中では原発に関する議論はなかったという「政府筋」の話を紹介して記事を閉じている。
ちなみに【東京】は昨日、訪日直前の講演で「日本も脱原発の方向に行くべきだ」と言及したと報じたが、そうした内容の記事は今朝の《毎日》には見当たらない。
4.震災関連死の3人に2人は原発関連死
【東京】は、《毎日》が原発関連で引用した、メルケル氏の来日後の講演について、1面右下の紹介コーナーで、「過去と向き合うことで国際社会に。来日したドイツのメルケル首相が講演」と伝え、2面で「過去の総括
和解の前提」との見出しのもと、首脳会談の様子を写真入りで大きく伝えている。だが、《東京》が最も重視するのは、「首脳会談では話題にならなかった」、日独であまりにも対照的な、震災後の原発政策についてだ。2面でメルケル首相来日を伝える記事の左側に、日独の「原発の現状」について比較表を掲げ、その下に「原発政策 日独落差」との見出しで記事を置いている。中身は、会談後の両首脳に対する記者会見で、ドイツのメディアが日本の再稼働路線について「ドイツは脱原発なのになぜ?」と質問、安倍総理が「国民に対し低廉で安定的なエネルギー供給をしていく責任がある」という従来からのお題目を唱えたことを記す。まあ、彼我の違いは改めて説明するまでもないけれど、記事末尾で「安倍首相は共同会見で、ドイツを「グローバルパートナー」と持ち上げたが、原発政策に関してはパートナーとは言えない」と結んでいる。
順序が逆になったが、《東京》の1面トップは、「原発関連死1232人に」との記事。震災の間接的な影響による死亡として市町村が震災関連死と認めれば災害弔慰金支払いの対象となるが、《東京》はそのうち、東電福島第一原発事故で避難を迫られ、体調が悪化して病死や自殺した事例を「原発関連死」と名付け、震災から2年後の13年3月から半年ごとに調査結果を公表している。津波の被害を含む「震災関連死」と「原発関連死」を切り分けることで分かることがある。調査の結果、「原発関連死」はこの一年で184人増え、被害が拡大し続けている状況が明らかになったという。「震災関連死」の65%までが「原発関連死」。改めて、原発事故が今も全く収束にはほど遠い状況だということがハッキリする。
補遺
今日の各紙、「戦後70年談話」について検討する「21世紀構想懇談会」の北岡伸一座長代理が、昨日のシンポジウムで、「私は安部さんに『日本は侵略した』と言ってほしい」と述べたことが大きく扱われている。当然の常識に属することなのだが、安倍ブレーンとしての北岡氏のこれまでの言動からすると、まさしく「ニュースに値する発言」だ。《朝日》は4面、《毎日》は2面に写真付きで。《東京》は1面で写真付きの扱い。メルケル訪日をどう捉えるかとも関わってくることで、8月の談話に向けての基本的な動きを捉えたものと評価できる。ところが《読売》は、4面の一番下にベタ記事扱い。書かざるを得ないけれども「なるべく読むなよ!」と言いたいかのようだった。安倍政権と《読売》にとって具合の悪い内容とみえる。こんなところにも新聞の「個性」が表出する。
来月創刊予定のメルマガについて(4) [uttiiの電子版ウォッチ]
午前中にアップする予定が午後三時過ぎにずれ込んでしまいました。今日3月9日の分です。目を通していただければ幸いです。
【20150309】
今朝の各紙は、東日本大震災から4年の3月11日を控えて、いわば「震災メモリアルウィーク」がスタートした趣がある。《朝日》と《毎日》がそれぞれ被災地の問題を1面トップに掲げるほか、《読売》は1面左肩に前日日曜日が「追悼の日曜日」になったと写真入りで報じている。《東京》は1面トップを歴史発掘モノに譲ったけれども、3面には同紙に定期的に登場する文化人のひとり、高村薫さんに「原発と日本」について語らせ、社説も「福島の苦しみ正面から」と東日本大震災四年に寄せる内容だ。今日という日の捉え方にも、各紙それぞれの特徴が出ている3月9日。では個別に見ていくことにしよう。
ラインナップ
1.人口流出が続く東北を、国は見捨ててしまうのか?
2.オリンピック景気は全国に波及するか?
3.放射線を浴び続けるボランティアの身体も心配だ。
4.日米開戦秘史~超一級極秘資料発見!
1.人口流出が続く東北を、国は見捨ててしまうのか?
【朝日】は、震災四年の企画として、「被災地続く人口減」の大きな見出しを1面トップに。被害の大きかった42自治体のうち、復興事業関係で全国から転入者があった仙台市とその周辺を除き、人口流出が止まらない現状をデータで示した。比較時点は震災直前の2011年3月1日と今年2月1日。このデータには「震災による死者を含む」という点、日本全体で見ても0.8%の減少があり、人口が減少した都道府県の平均はマイナス1.7%だったなど、いくつかの点を「補正」しなければ軽々には判断できないけれども、それでも陸前高田のマイナス16.1%、女川町のマイナス29.1%、山元町のマイナス23.6%などは驚く数字だ。また福島県では、原発事故の影響で軒並み10%台の減少率。そのどこもが「放射線量が高く、長期間帰還できない区域を抱える」自治体だ。
《朝日》のまとめ方は「日本の多くの地方で進む人口減が、被災地では、震災と原発を機に加速していると言える」という、至極真っ当と言うか、その通りとしか言いようのないもの。むしろ、「原発避難先定住の動き」と最後に小見出しを置いた部分が重要と思われた。避難指示区域に家を持つ人が避難先などで土地・家屋を買えば不動産取得税が軽くなる特例措置の適用件数が、相当な数にのぼっているという。メディアも、「減少」の側だけでなく、「増加」の側で何が起きているのか、視点を移していく必要があるのではないか。
その記事の左には、竹下復興大臣がNHKの討論番組で「被災した一人ひとり、さらに市町村も自立する強い意志を持ってほしい」と2016年度以降の復興予算については自治体に負担を一部求める考えを口にしたため、村井知事(宮城)や達増知事(岩手)の反発を招いたことが記事になっている。なんて、思慮分別のない大臣なのだろう。
2.オリンピック景気は全国に波及するか?
【読売】の1面トップは、「東京五輪で地方創生」として、6月に全国70の市町村長が首長連合を発足させると伝えている。オリンピックにあやかって地方特産品の売り込みを国内外に図るらしいが、なんだか社会科の教科書を読んでいるかのようで、「金沢市の九谷焼」「新潟県燕市の洋食器」「京都府丹後市の丹後ちりめん」など、絵付きで紹介されていて、あまりにも緩すぎる。これが日本最大部数を誇る大新聞の1面トップかと思うと、全身から力が抜けていく思いがする。こんな時には、「落とすわけにはいかないが目立たせたくない記事」が隠れていることも多いのだが、今日はそこまでの事情はなさそうだ。単に、深い取材のできたものがなかっただけなのか。それはそれで報道機関としては心配な状態だが。
3.放射線を浴び続けるボランティアの身体も心配だ。
【毎日】はキチンと問題を提起している。1面トップに「20キロ圏ボランティア3万人」と題し、「除染2500回 被ばく管理外」との記事。国の直轄による除染特別地域で活動したボランティアが、少なくとも延べ3万人いたとの独自取材記事。「労働者」でないために、法令上の被ばく管理の対象外とのこと。「国は線量が比較的低く市町村が除染する地域については活動紹介をしているが、国直轄地域の活動はほとんど把握していない」という。国直轄地域の方がルーズだというのはなぜなのか。首をかしげてしまう内容だ。
なお、11面と12面の見開き全面を使って「検証大震災」が展開されている。こちらは関連記事と言うよりも、むしろ記事本体が11面12面で、1面は記事全体がリードのような役割。今春から始まる、事故直後に現場で作業に当たった二万人の健康影響調査の頼りなさ。今後増えることが予想される労災申請。市町村除染と国直轄除染の双方で杜撰さが指摘される作業員の被ばく管理。ボランティアは、除染作業員ほどの継続性はないにせよ、業者が入らないような帰還困難区域での一時帰宅に付き添うなどのこともあるという。
4.日米開戦秘史~超一級極秘資料発見!
【東京】は、他紙と全く違う1面トップ。日米開戦前に敵方の経済力を探る目的で設置された「陸軍省戦争経済研究班」(通称、「秋丸機関」。有沢弘巳、中山伊知郎他)の機密報告書の一部が発見されたという大ニュース。大学の教員が古書店で発見したという。英米両国の経済情報を収集・分析し、両国の強大さを指摘するデータを示しながら、「開戦回避の提言はなく」「軍部の意向を無視できなかった事情がうかがえる」としている。記事は、これらの報告書が1941年夏に提出されたと見られるにもかかわらず、日本が同年7月末「南部仏印進駐」に踏み切ったことを捉え、軍は都合良く報告書を解釈したのではないかと推測を記している。東京新聞の文化部は常に独自の取材成果を見せてくれている。
1面左肩の「揺れる政策 陰る太陽光」の記事は、全村避難が続く福島県飯舘村で、太陽光発電を事業化する「飯舘電力」を取り上げている。再生エネルギー発電の奨励から、買い取り方針が揺らぐにつれて経営が苦しくなっていく実情を描く。記事は3面に続き、困難ななかでも壁を乗り越えようとする社長の「飯舘村で売れるもんは、もう電気ぐらいしかねえんだ」という悲痛な言葉を紹介。最後に同社長の事業目的の冒頭に掲げた、「飯舘村民の自立と再生を促し、自身と尊厳を取り戻す」との重い言葉を記している。
この3面は、1面から続く上記「飯舘電力」記事が、あと二本の原発記事を引き連れる風情になっている。一つは、作家高村薫へのインタビュー、もう一つは、訪日直前のメルケル独首相に関する記事。メルケル氏はドイツが早期の脱原発を決意し、再生可能エネルギーの普及を進めているとし、「日本も同じ道を歩むべきだ」と呼びかけたという。誠にもっともな話だけに、こちらはぐうの音も出ない。了