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ジダンの頭突き事件を考える [ブランチ業務日誌]

何が将軍ジダンにそれをさせたのかについては、頭突きを胸に食らって昏倒したマテラッツィを含め二人の当事者が硬く口を閉ざしているだけに、しばらくは憶測が中心の議論とならざるをえないのだろう。だが、プロサッカー選手として最後の試合がワールドカップ決勝戦という、これ以上ない名誉と幸福に包まれていたはずのジダンが、世界中が見つめるなかで相手に頭突きをお見舞いしたとなれば、ありきたりの理由では納得のしようもない。今回は、少々想像を逞しくしてみたい。

この日のジダンは、肝心の決勝戦だというのに、前半のPKを別とすればあまり華々しい仕事をさせてもらっていなかった。マテラッツィカンナバーロの執拗なマークがあったからだ。そんなイライラが募ったジダンが、つい暴力に及んでしまったと考えることもできようが、それだけでは足りない気がする。ましてや、「禿げ野郎」とか「爺(じじ)い!走れ!」と言われてやったとは到底思えない。いったい何故そこまでしなければならなかったのかというのが、私を含め大方の率直な疑問だろう。

ありそうな理由として頭に浮かんだのは、アルジェリア移民の二世であるジダンに対して、アラブ系移民を意味する蔑称の類が投げつけられたのではないかということだった。早速、ネットで探ってみたら、フランス語でアラブを逆から読んで「ブール」と発音するやりかたがあるという記述を見つけた。イタリア人のマテラッツィがその言葉を知っていたかどうかは分からないが。
http://stjofonekorea.blog6.fc2.com/blog-entry-289.html

マスコミのなかにはこれに類する二つの「説」があるようで、「出自に関する侮辱を受けた」、「テロリストと言われた」と解説する新聞もあったらしい。ジダンの代理人も「相当深刻な言葉を投げつけられたようだ」と言っており、一部に、家族に対する侮辱だったという話もでてはいる。仮にそうした言葉のどれかであったとして、その次にはより深刻な疑問が浮かぶ。マテラッツィの発言は偶発的なものだったのか、意図的なものだったのか。さらに、もしも意図的だったとするなら、どこまで仕組まれたことだったのか。

ジダンを怒らせることが、イタリアの作戦だったのではないかという疑惑がある。フランス代表監督のドメネクが、「MVPは間違いなくマテラッツィだ。何しろ、ジダンを追放するのに成功したんだから」と語ったのも意味深長だが、同じく「ジダンはずっと我慢していた」とも言っていることは何を意味するのか。ジダンに投げつけられた侮蔑の言葉は、頭突き事件が起こるはるか前から、マテラッツィのみならず、他のイタリア代表選手たちによっても繰り返されていたのではないか。相手を怒らせ、感情を爆発させて退場につながるようなラフプレーを誘う。そこまで上手くいかなくとも、怒りは冷静な判断能力を奪う。司令塔でもある中盤の支配者ジダンを混乱に陥れれば、フランスの攻撃力は大きく減殺される。そんな計算があってのことだとしたら、フェアプレーの精神にもとる行為であり、それこそ一発退場の理由にもなるだろう。もしもそんな「事実」が確認された場合には、イタリアの優勝そのものが問われて然るべきことなのではないか。

あまり報道されなかったが、今回のワールドカップのテーマは、「人種差別反対」だった。各試合の前に決まって行われるセレモニーでは、両チームの選手と監督、審判が集まり、「SAY NO TO RACISM」(人種差別にノーを!)と大書された横断幕を掲げて記念撮影も行われていた。そしてピッチ上では、そうしたテーマを反映するかのように、民族と国籍の複雑な組み合わせをいくつかのチームのなかに見ることができた。例えば、成長著しかったオーストラリア代表のうち8人がクロアチア人だった。フォワードの中心選手、ヴィドゥカもクロアチア系移民の子孫だった。忘れてはいけない、我が日本代表にはブラジル出身の三都主(サントス)がいた。そして、フランス代表は最も「移民軍団」的色彩の濃いチームだった。ズラリと並んだ先発メンバー11人のなかで、民族的な意味でのフランス人はほとんど見あたらない。少なくとも8人から9人はアフリカ系であり、その中には勿論アルジェリア移民の子であるジダンも含まれていた。対照的にイタリアは、全員がイタリア人。何か、帝国時代のローマ市民の軍団のような趣だ。そのイタリアが、ジダンを怒らせるような言葉を意識的に使い、まんまと退場に追い込んだのだとしたら、それは今回の大会の精神にも著しく反した、まさしく反則行為と言われても仕方がないだろう。

フランス代表チームが「他民族混成チーム」という特徴を持っていたのに対し、「純血軍団」イタリア代表の最大の特長は、八百長疑惑に揺れるセリエAの有力4チーム在籍者が過半を占め、史上最優秀の呼び声も高いキーパーのブッフォンに至っては賭博疑惑に曝されているという、いわばダーティー軍団というところにあった。残念なことに、ジダンはそのダーティー軍団の罠に落ちてしまったということになるのかもしれない。


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