柳沢大臣の暴言の陰に「生きたる機械」？

  柳沢厚生労働大臣の「産む機械」発言。国会冒頭の大事件に発展しちゃいました。今夜遅くに結果が判明する愛知県知事選挙と北九州市長選挙にも影響大といわれるなか、選挙結果如何では、安倍総理も事実上の大臣罷免に踏み切らざるを得ないのではないかという観測も流れているようです。さらに、民主党などの審議拒否や野党女性議員らによる辞任要求などなど、この舌禍事件が及ぼす政治的波風のあれやこれやについては別の機会に記すとして、ここは言葉そのものに立ち返って考えてみたいと思います。

  それにしてもひどい発言だった。「産む機械」と言われて男女ともに腹を立てたのは当然として、でも、本当に許し難いのは、そのあとに「一人頭頑張ってもらうしかない」と言った部分じゃないでしょうか。少子化問題を論ずるにあたって、女性の方が産みたがらないからだと原因を勝手に解釈し、不当に強調している。男は赤ちゃんを欲しがっているのに、我が儘な女性が嫌がっているので子供が増えないと言わんばかりでしょう。政策目標としての「少子化克服」に対応するのは、「一人一人が頑張って産めよ殖やせよ」ではなく、子どもを作って育てられるように社会基盤を特別に整備することなのに。柳沢さんは完全に誤解してしまっていた。

  それと、子どもが欲しいと考え、頑張ってもなかなか恵まれないカップル、あるいは不妊治療をしている多くのカップルからしたら、「壊れた機械」と言われているようなもので、これこそ失礼の極み。そうした女性たちやそのパートナーたちは、こういう非人間的な扱いと人格否定を怖れ、不妊治療の事実をひた隠しにしている人も多い。厚生労働大臣の言葉として、全く最低ですね。

　柳沢氏は何故こんな発言をしたのか。勿論、柳沢氏に厚生労働大臣の適性と自覚が欠けていて、女性蔑視のホンネが出てしまったからだということは間違いがない。ただ、講演のなかで出てしまったという点については、その場に特有の心理が働いていたのではないかと感じました。往々にして講演者が陥りがちなことですが、目の前にいる聴衆の歓心を買いたいという衝動に抗えず、思いついたアイデアをそのまま口に出してしまった、それが大臣失格の最低の代物だったというわけです。目の前の聴衆に向かって「女なんてものは子ども産むのが仕事」と言葉を投げかければ、「そうそう。ついでに言えば、産ませるほうは男の仕事なわけだけどな。イヒヒ」と、下卑た笑い声とニヤケ顔を返してくれるような聴衆。いや、実際にそうだったのかそうでなかったのかは別として、少なくとも壇上の柳沢氏は、そんな話を喜んで聴くような聴衆だと理解した、だから、それに相応しい話でウケを狙った、そういうことだったんじゃないのかな。

  政治家はしばしば、喩え話で地雷を踏む。わざと乱暴な物言いをすることによって「腕力」を誇示する（「老人福祉は枯れ木に水をやるようなものだ」というかつての蔵相、渡辺美智男氏の発言）例、聴衆と共通の被差別対象を見出すことによって一種の共犯関係を作り出す（これも故渡辺美智雄による、アメリカの黒人差別発言「アメリカの黒人等は破産してもアッケラカのカーだ」は典型）やり方、こうした暴言・失言の類は山のように見てきましたよね。

　さて、突拍子もないと思われるかもしれないけど、柳沢発言の要である「機械」ということについて、一つ、思い当たる節があるんです。

　この２月１０日から全国で順次ロードショー公開される「長州ファイブ」という映画、松田龍平がなかなかに良い演技をしていて、かなり有名になっているから御存じの人も多いかもしれないですね。幕末に国禁を犯してイギリスに密航し、西欧文明と技術を吸収して日本近代化に役立つ人になりたいと考えた若い５人の長州藩士たちの実際の物語。５人のなかには、のちに初代の内閣総理大臣となった伊藤博文、外相を務めた井上馨も含まれている。その５人を渡航させた藩主（毛利敬親）は、「生きたる機械（きけえ）となって戻ってこい」と彼らを激励する。もうお分かりですね。柳沢伯夫厚生労働大臣、もしかしたらこの映画の試写会に足を運んでしまったのでは、、、？

  映画の「生きたる機械」は、普通の人間の生活を捨てて粉骨砕身、ひたすら機械のように働き続け、日本の近代化を推し進める原動力となるエリートを意味しているわけです。真の独立を成し遂げたいとする日本。国家にとって有能な人間というわけですね。映画は非常に面白くできていましたが、この「生きたる機械」が頭に残っていて、柳沢さん、少子化問題解決の切り札として、出産適齢期女性を「産む機械」にしちゃったのかもしれませんよ。勿論、根拠のない想像にすぎないですし、仮に当たっていたからといって許されるわけでもありませんが。

長州ファイブ　http://www.chosyufive-movie.com/